ゴーン氏逮捕の謎とこの事件を示唆するもの

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2018年11月19日夜、日産自動車株式会社のカルロス・ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役(いずれも当時)が東京地検特捜部に逮捕されました。

倒産寸前だった日産をV字回復させるなど、経営者としての手腕を高く評価され、三菱自動車、フランスのルノーの会長を務めるゴーン氏。この事件の衝撃は非常に大きいものです。

ただ、現段階で出ている情報は、検察と日産の情報のみで、多くのメディアによってゴーン氏が真っ黒にされています。当然、ゴーン氏、ケリー氏は拘束されており、反論もできない状況が続きます。今回、この事件の謎について書いていきたいと思います。

逮捕容疑事実である「有価証券報告書虚偽記載」とは

そもそも、逮捕容疑である「有価証券報告書虚偽記載」とは何でしょう。

有価証券報告書は、事業年度ごとに作成する企業内容の外部への開示資料であり、投資家の判断の重要な資料となります。上場会社は有価証券報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法第24条第1項)。東京地検特捜部は、ゴーン氏が有価証券報告書に自らの報酬を過小に報告したとして、金融商品取引法違反の容疑で逮捕したということです。

2011年3月期から2015年3月期までの5年間、有価証券報告書において、ゴーン会長の報酬は49億8700万円だと情報公開されていたのが、実際は99億9800万円を受け取っていたと言われています。

また、この逮捕容疑事実は、有価証券報告書の記載内容についての問題で、脱税などの税金の問題ではありません。

有価証券報告書の虚偽記載についての謎

大きな企業であれば、有価証券報告書は、財務などの担当部門で情報を集約して作成、提出します。

有価証券報告書での役員報酬が過少に記載されていたのであれば、ゴーン氏個人の問題ではなく、会社の組織の問題になります。それが、なぜゴーン氏とケリー氏だけの犯罪とされているのでしょうか。

虚偽記載のうち40億円分は株価連動報酬と報じられています。
日産は役員報酬として、ストックアプリシエーション権(SAR)と呼ばれる、株価に連動した報酬を得る制度を導入しています。ゴーン氏にSARで支払われた報酬40億円が有価証券報告書に記載されておらず、東京地検特捜部は、その40億円を有価証券報告書に記載すべきだったとしています。

ゴーン氏への役員報酬40億円は、日産から現金で支払われ、支払自体は会社が組織として正規に行っていたということになります。会社は完全に把握していたということです。

記載するかしないかについては、ゴーン氏個人の問題ではなく、日産という会社が組織として決定したもののはずです。
また、役員報酬の「総額」は監査の対象になります。ゴーン氏のSARの支払いを含めないということは、役員報酬の総額も低くなることになるので、ゴーン氏に対するSARの支払を役員報酬の総額に含めないことは、最終的には監査法人も了承したことになります。

特別背任罪についての謎

西川廣人社長は内部通報にもとづき、数か月にわたって社内調査を行ったとし、逮捕容疑である報酬額の虚偽記載のほか

  • 私的な目的での投資資金の支出
  • 私的な目的の経費の支出

が確認され、検察に情報を提供し、全面協力したと述べています。これは、特別背任罪の可能性です。

ゴーン氏は、投資資金で海外の不動産購入を購入し、それをゴーン氏が自宅として使用していたと報道されています。しかし、それが事実だとしても特別背任罪(会社法第960条~第962条)になるのでしょうか。

特別背任罪は、

自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたとき

成立します。

どういうことかというと、財産上の損害があるのかということです。
時価よりも高く購入したり、不利な条件での取引があったなら別ですが、そのような話は出てきていません。不動産は会社の所有になっているので、会社にとって損害の発生は考えにくいのです。

司法取引の謎とクーデター説

この事件では、ゴーン氏の部下と検察官との間で2018年6月の刑訴法改正で施行された日本版司法取引が成立したと報じられています。この司法取引は、下位者と取引をして捜査に協力させることで上位者の犯罪事実を明らかにするというものです。

しかし、この有価証券報告書への虚偽記載の事件について、司法取引により明らかにされた供述とは何でしょう。

報道ベースの話では、客観的な立証ができることばかりなのです。
有価証券報告書の虚偽記載が司法取引による供述が必要だとは思えませんし、投資資金の私的な流用の話も、司法取引による供述が必要だとは思えません。

日本の司法取引制度は、検察官等への捜査への協力の見返りに刑事処罰を軽減するというものです。捜査協力とは、検察が知り得ない情報の提供や、新たな事実の供述などのことです。

そこで、司法取引が有価証券報告書の役員報酬の過少記載について、会社幹部と検察官の間で行われたのではないかという疑いがでてきます。なぜかといえば、他の会社幹部が刑事責任を問われないことが保証されなければ、検察の金融商品取引法違反の捜査に会社として協力することは考えられないからです。

その他の謎・まとめ・推測

その他の疑問点は以下のとおりです。

  • 売上が約12兆円、利益が約7500億円という日産の規模からすると、1期あたり約10億円という虚偽記載額は誤差の範囲で、有価証券報告書の虚偽記載の罪に問うべき事件なのか
  • 11月22日、ゴーン氏・ケリー氏の解任が決定された臨時取締役会で特別利害関係人に該当する人物がいた可能性はなかったのか
    ※取締役会では、特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができません(会社法369条第2項)。
  • これから明らかになる事実は、ゴーン氏とケリー氏の身柄を拘束しなければ解明できないものなのか(内部調査を数ヶ月行ってきたのであれば、概ね事実関係は明らかになっているはず。日本の人質司法の問題もあります)

このように、この事件は検察からの情報では、不思議な事が多く、ゴーン氏も反論できる状況にないので、真相は分かりません。

では、なぜ東京地検特捜部はゴーン氏、ケリー氏を逮捕するに至ったのでしょうか。

2010年3月期から上場企業に1億円以上の役員報酬の個別開示が義務付けられています。これは、経営者が高額報酬を受けることを株主や投資家に開示することが重要だと考えられたからでしょう。また、現在、格差社会が社会的な問題となっています。

この問題は、「高報酬富裕層に対する牽制」という政治的メッセージがあるのかもしれません。

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